野上薫 個展『器の作用』@CRISPY EGG Gallery


野上薫 個展 器の作用


野上薫さんは、神奈川県出身の陶芸作家です。
1988年に多摩美術大学油画科の陶芸コースを卒業、2012年に
藤野の峠のふもとに移り住み、制作を続けています。

代表的な作品に、陶土をひも状に伸ばして螺旋状に積んでいく
「ひもづくり」と呼ばれる成形方法をとった作品群があります。
通常のひもづくりでは、積んだ陶土の轍(わだち)を均して
滑らかにするものですが、その轍を均さぬまま、揺らぐ黒い
土の紐の間に白い土を埋め込むことによって、ひと目見て
彼女の作品と分かる仕上がりになっています。
野上さんの作品では、形の扱われ方も特徴的です。
ご案内状に掲載しているケーキドーム型の作品は、その上下を
逆にすると、蓋の付いた底の深い容器、という別形態で使用
できるようになっています。
過去作である小さなリム皿にも、変わった仕掛けがあります。
見込みに呉須で蝶が描かれた磁器のリム皿は、上下を逆にすると、
台であった部分にぐるりと描かれたリボンによって麦わら帽子の
姿になり、帽子の中に留まった蝶という立体的な風景が現れるのです。
前者には汎用性という利点もありますが、他の作品にも共通する
意匠を鑑みると、あくまで形に対する強い意識、あるいは遊び心が
先にあることが伺えます。
「ひもづくり」のものの他の作品に、先述した帽子や浮き輪を
模した形の磁器の食器や、1枚の板状の粘土をペーパークラフトの
ように切り折りして組み立てた耐熱器などがあります。
いずれも、形が出来る動機に特徴があります。
このように、野上さんの陶器は、瞬時には用途が特定されない
不思議な外観をしていますが、その中でも、今回展示する
「ひもづくり」の作品では、粘土の紐という単一のエレメントの
所業が目に見えるためか、あるいはその幾何学的な形のためか、
食器・花器・オブジェ といった名目の各作品がひときわフラット
に見えます。
それらの一堂に会する本展示では、細胞群が分化して生物の各器官を
作っていく姿を想起するような生命感と、しかし器官という単位で
あるがゆえに応答しない無機質さを見せてくれることと思います。

ここまでのご紹介だと、野上さんの食器の実用性を疑われる向きも
あるかもしれません。
しかし、一風変わった外観に反してお料理、他の食器との調和を
とることは難しくありません。
黒くマットな質感は食べ物の色つやを引き立て、一皿でも彩りが生まれます。
また、一食が特定の様式に沿うとは限らない家庭の食卓では、
各料理に合わせた食器同士の調和が難しくなる場合がありますが、
特徴的な食器を一点アクセントとして登場させることで場をまとめる
効果が期待できます。
よく焼き締まっているので、染みがつきにくいことや、シャープな
作りから想像されるより丈夫であることも、気兼ねなく使えるポイントです。 


※本展会期に重ねて、5月19日・20日の日程で『藤野ぐるっと陶器市2018
が開催されます。野上薫さんの運営する「◯△ gallery(まるさんかくギャラリー)」
が会場のひとつとなっています。
野上さんの作品も、また違ったものを御覧いただけるかもしれません。


 ●会期
2018年5月10日(木)〜5月27日(日)
13:00~18:00
開廊 木・金・土・日

●会場
CRISPY EGG Gallery
神奈川県相模原市中央区淵野辺3-17-5