上村洋一 個展『仮の大地』@MARUEDO JAPAN

上村洋一 仮の大地


上村は2010年頃から風景を主題に、視覚と聴覚との関係性の中で作品を展開してきました。
初期の作品は作曲家エリック・サティの楽曲や楽譜、音や状態を表現する言語である
オノマトペなど、過去に作られた音楽や言語を解体・再構成して、風景を概念的に
捉えた音響作品を作ってきました。

その後、2011年の大震災直後の水戸芸術館での個展に出品したサウンド・
インスタレーション作品「night passage」を境に上村の作品や制作態度は変化していきます。
大震災による自然災害や人災を目の当たりにし、より直接的に風景・環境に対峙する
必要性を感じた上村はフィールド・レコーディングによって得られる環境音を制作の
主な素材として用いていくようになります。2017年の台湾での滞在制作では、
台湾人画家の陳澄波によって制作された1枚の風景画「東台湾臨海道路」をリサーチし、
その絵に描かれている原住民・タオ族の住む島・蘭嶼に赴きます。
そこで原子力廃棄物を貯蔵している港の環境音や、彼等の伝統的な唄を録音し、
それらの音と、蘭嶼の象徴的な色でもある赤土を組み合わせ、「ambient colors, ambient songs」
を発表しました。このように、ドイツ、スイス、ニューヨーク、台湾そして日本などの
世界各地の環境音を録音し、作品を制作・発表する中で上村は、それまで概念的に
環境を捉えていたスタンスを徐々に変化させ、より知覚的なアプローチにシフトしていきました。

上村がマイクロフォンとフィールドレコーダーという録音機材によって採集する環境音は、
大潮の日の荒れ狂う海中の音や、重厚なモダニズム建築の内部の微細な振動など、
普段は聴くことのない音から、都市の騒音や人々の話し声などの私たちの日常の生活音まで
多岐に渡ります。上村はフィールド・レコーディングという行為を極めてプライベートな
聴取経験とし、その経験や記憶は他の誰とも共有不可能な経験と位置づけています。
しかし、そのような行為から得られる音を作品環境の一部にすることで上村は、
作家の持つ個人的な経験や記憶と、私たちが生きる世界を取り巻く人間の知覚閾値を
越えた事象、この2つが同居するハイブリッドな環境を、展示空間というパブリックな
空間に生成しようと試みています。

4年ぶりとなる個展「仮の大地」は流氷から得られる音や物質を採集・再構成する
ことによって、私たちを取り巻くもの - 環境について考察した展覧会です。
上村は2019年2月から3月にかけて北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門
(CoSTEP)との協働研究プロジェクトのもと、北海道斜里郡に滞在し、オホーツク海の
流氷の環境をリサーチしました。遠くシベリアの海で氷結し、北海道北部に流れ着く
流氷群は近年の地球温暖化や気候変動による影響を受け、減衰しながら変化を続けています。
そのような人間世界の影響を受けつつも、その白く冷たい塊はあらゆる生命の循環に
欠かせない海中のプランクトンを運んでいます。上村は、私たちの生きるこの世界を
「人為的な影響を受けながら形成される環境の循環」と捉えています。
オホーツク海の流氷は、この上村の考えを示唆する物質であり事象なのです。
そして、上村はこの流氷のような自然物とも人工物とも呼べない存在を「仮の大地」
と名付け、流氷が内包する音と物質を使い、私たちを取り巻く不確かで曖昧なエコロジー
を表出させようと試みます。



上村洋一(かみむらよういち)

聴覚や視覚といった感覚を通して風景に触れることで、気象や天文といった
現象の在り方ついて探求している。
それは必ずしも自らの感覚的な経験によって捉える事が出来ない
「自然」の存在をどのように捉えるかということであり、人間と非人間の間にある
「環境」について向き合うことであると考えている。
主にフィールド・レコーディングを素材にインスタレーションを制作し、
国内外で発表している。
 
主な活動
「エマージェンシーズ!039」 (NTTインターコミュニケーション・センター, 東京,日本, 2019)
「仮の大地」 (Marueido Japan, 東京, 日本, 2019)
「Sound of Ice Field」 (天塩郡/斜里郡, 北海道, 日本, 2019)
「Sound recording and session in New York」 (ニューヨーク, アメリカ, 2018) / 「180417_0℃@PARADISE AIR」(PARADISE AIR, 千葉, 日本, 2018)
「2017 Season 4 Residency Artists Exhibition」 (台北国際芸術村, 台北, 台湾, 2017)
「Ilha Formosa sound tour」 (台湾, 2017)
「Blue Architects AG」 (チューリッヒ, スイス, 2017)
「Wasserhaus」 (ブラウゼー, スイス, 2017)
「LagoArt Residency Program」 (ハンブルク,ドイツ, 2016)
「普遍的な風景」 (国際芸術センター青森, 青森, 2016)
「grandmother, prologue」 (Space Wunderkammer, 東京, 日本, 2015)
「Identity X―fusion of memory, memory for the future」 (nichido contemporary art, 東京, 日本, 2014)
「クリテリオム82」 (水戸芸術館, 茨城, 日本, 2011)


●会期
2019年5月31日(金)~6月21日(金) 
11:00~18:00
休廊日:日曜日 月曜日 祝日

●会場
MARUEDO JAPAN
〒107-0052
東京都港区赤坂2-23-1
アークヒルズフロントタワー 1F